テレビ会議「資料共有」の落とし穴

「資料共有」とは何を指すか?

「専用機」での資料共有と課題

レガシーなテレビ会議専用機では、発表者のプレゼン資料をPCで表示させ、その画面を会議の相手に配信する形式が一般的です。

それは参加者側としては見ているだけのため、一方向的です。また、限られた通信帯域を使って常に映像を流し込んでいるため、資料中の細かい字がつぶれてしまったりそもそも小さくて読みにくかったりすることも多々ありました。
また、その資料を参加者自身のPCで閲覧するためには、別途ファイルを配布して共有する仕組み・運用が必要となります。

従い、結局は発表資料を会議の事前に配布しておき、自分のノートPCに保存して会議に持ち込んだり、それが許されていなければ紙に印刷し、それを手元に用意して視線を落としながら会議を聞く、というスタイルにならざるを得ません。

更に言えば、事前に資料を配布するということはプレゼン資料の提出期限が厳しく、プレゼン本番直前に修正が必要となると面倒なことこの上ありません。

以上のように専用機の資料共有方式の欠点を羅列しましたが、結局は「会議スタイル」次第ではこの方式で何ら問題がない場合もあるのです。

例えば「社長からの方針徹底発表」など、周到に資料が準備・配布されて一方的に情報発信するスタイルであれば、後述のWEB会議で求められるような複雑な機能よりも、簡易性・確実性・統制性が重視されるでしょう。

ここまで差がある「資料共有」

一方でWEB会議の売りの一つとしてうたわれるのが高機能な「資料共有」あり、専用機の機能では満足できないユーザーが惹かれるのがそれなのです。

しかしこの「資料共有」で何ができるかについてはWEB会議製品の中でも差があります。
言葉の通り「資料」を「共有」するわけですが、それぞれが何を指すかについて、あらためて表に整理したいと思います。

カテゴリ 「資料」の種類 「共有」でできること
発表者画面 PCのデスクトップ画面 ①一方向に映像配信
②リモート接続による参加者側からの操作
特定のアプリケーション画面
板書 ホワイトボード ①双方向書き込み
②複数参加者同時書き込み
③データのダウンロード
議事録
ファイル PDF, Word等の文書 <会議中>
①発表者ページとの同期
②発表者が書いた線やメモの表示
③参加者が発表者と非同期でページめくり・表示の拡大縮小
④参加者独自メモ
<会議中以外>
①発表資料データのアップロード・ダウンロード
②議事録作成・配布
③会議中以外でのファイル配布・閲覧・編集
Powerpoint等のプレゼンデータ
Excel等の表データ

この表で「発表者画面」の範疇に収まるのが専用機です。

それに加え、WEB会議では「板書」や「ファイル」の共有を可能とするものが多いです。
それも当然で、WEB会議とはそもそもブラウザや専用ソフトをPC上で動かして使う仕組みであり、中継サーバーを介してカメラ映像や音声データをやりとりする上でデータをファイルの形でPC間でシェアさせるのもその延長線上といえます。

しかし表に整理したとおりできることを書き並べてみると、WEB会議では「共有」という概念を超えて、もはや「ペーパーレスシステム」の様相を呈してきています。
そこで話題をそれにフォーカスしたいと思います。

WEB会議は「ペーパーレス」をもたらすか?

ペーパーレスシステム」というと、必要な機能として何を浮かべるでしょうか。

ファイルをサーバに保管して、PCやタブレット端末などを使って閲覧ができること。
また、特定グループ内でシェアできること。

これが最低限と思いますが、これだとただの「ファイル管理システム」に過ぎず、WindowsやMAC OSのファイルシステム仕組みだけで十分でしょう。
つまり「紙の印刷をやめる」目的だけであれば、各自にモバイルPC等を与えて携帯を許すだけで良いでしょう(実際はセキュリティ強化のために印刷をやめたいわけなのでそうはいかないのですが)。

これだけでなく「ペーパーレス会議システム」と”会議”が付くとどうでしょうか。
前節で整理した表のように、発表者との資料表示同期だとか結果のダウンロードだとか「会議の準備・進行・結果共有」という要素が加わってきます。

そもそも「ペーパーレス」にする必要があるのか

ペーパーレスが良い理由としては、紙や印刷コストの削減、および会議資料の準備など会議運用側の時間削減がうたわれます。

印刷コスト・準備コスト減の効果はどれほどか?

ですがよほどページ数の多い資料を使ってしょっちゅう会議するような企業でない限りは、紙のコストがこの手のシステムの利用コストを上回ることは珍しいでしょう。

WEB会議機能を持たない純粋なペーパーレスシステムである「meetingplaza」のサイトでの試算によると、「20人参加する会議を月に4回開催するグループが3つあり、1回あたりの会議資料が200ページ、資料の半分はカラー印刷」として、年間374万円、としています。

ペーパーレス会議のMPペーパーレス会議とは | Web会議・テレビ会議システムならMe...
https://www.meetingplaza.com/plc/about/
「MeetingPlaza」ペーパーレス会議のMPペーパーレス会議とはについてご説明しています。NTTテクノクロスがご提供するWeb会議システム「MeetingPlaza」では、...

もし私が当事者であれば、ペーパーレス会議を導入する前に、会議の回数と資料のページ数を減らす努力をすると思います。
へたにペーパーレス化して資料の自由度を与えたならば、資料の量が倍になるのではないかとさえ懸念することでしょう。それで議論のポイントがボケて会議時間が延びたりでもすれば、運用担当一人の準備時間が縮まっても参加者20人の拘束時間が延びるわけで、本末転倒になりかねません。
また、管理者の手間を言えば、社員の増減によるIDの改廃管理が必要となります。

ちなみにこの条件でのmeetingplazaの年間利用料は初期コストを除くと48万円ですが、3つのグループが同時に会議したいことがあるとすればその3倍になります。また、会議室に持ち込む端末代や電気代も増えるでしょう。
また、この試算ではカラー資料が半分とされますが、モノクロのみならば1/3の124万円となりますから、試算条件に依るところが大きく、「コスト削減」だけを根拠に導入するのは厳しいものがあります。

「ペーパーレス」は環境に優しいか?

紙の削減によりCO2排出が削減され、環境保護につながるということも良心をくすぐるポイントです。
それ自体は確かに素晴らしいことですが、端末の製造や充電による電力消費がもたらす環境負荷と比較したデータを見たことがありません。契約一つならば微々たるものではありますが、データセンターのマシン室における空調・ファンおよび免震設備などを考えたら環境に優しいことをしているようにはとても見えません。

「環境負荷軽減」を主要な理由としてペーパーレスを推し進めるほどの意識高い系企業があったなら否定するものではありませんが、別に新たにペーパーレスシステムを導入しなくても「印刷は最小限に留める」ことで誰しもが「確実に」環境に貢献できるものと考えます。

つまり「ペーパーレス」が必要な企業とは?

「ペーパーレス」が恩恵を確かにもたらすとすれば、コスト削減でも環境保護でもなく、別の点にあるのではないかと思います。

情報漏えいリスクの軽減

印刷物の紛失による企業の研究・開発に関する機密情報や顧客情報などの漏えい事故が発生したとすれば、それが経営に多大なダメージとなる企業。
そのような企業は社外秘資料の印刷自体を禁止しますので、多量の資料を用いた会議を円滑に実施するためには「ペーパーレス」の仕組みの利便性は高いと言えます。

「印刷できないデータ」を会議で用いる

会議資料がドキュメントデータやプレゼン資料の印刷物の枠に収まらない場合に、「ペーパーレス」の仕組みの中でファイルがそのままの形でシェアできるならば、「紙ではできなかったことができる」ようになります。

例えば、解像度4k以上などの高精細な写真データは、データのまま共有することで拡大して細部を確認できます。
同様に、巨大なエクセルデータの一部を拾い上げて説明したりする場合には全部印刷しては非効率ですし、会議の場でセルの値を変更するようなことはデータでしかなしえません。

ほかにも、CADデータだったり開発中のアプリケーション画面だったり、紙では無理のある資料というのは枚挙にいとまがありません。
ただしこれらの場合にはPC画面やアプリケーションファイルそのもののシェアが必要であるため、「ペーパーレスシステム」というよりは「画面シェア」や「アプリケーションシェア」機能を持つ会議システムが大きな選択肢になるでしょう。

それでも「ペーパーレス」を求めるなら

いろいろ書きましたが、理由はともかくとして、「ペーパーレス」を実現したいのであれば、ゴールはシンプルです。

「印刷物を配布した場合と同じことができる」

これが実現できてはじめて、利用者がストレスなく「ペーパーレス」に移行できるのです。

この点から欲しい機能を抽出すると、会議中でいえば

  • 参加者が発表者と非同期で好きなように資料データのページめくり・表示の拡大縮小ができる
  • 好きな時に発表者と同期できる
  • 参加者が自分のためだけのメモを書き込める
  • 自分のメモを書いたデータは自分だけが取り出せる専用のスペースに保管できる

といったあたりが必須となってきます。
会議中以外でも、閲覧したりメモを書き込んで保存することができれば、「会議システム」に縛られずにペーパーレスシステムとしても利用できますね。
ただしここまでできるWEB会議システムがどれだけあるか・・・については次章に譲ります。

結局、資料共有が「使える」のはどの製品か?

iDeepソリューションズ「TeleOffice」

  • 参加者が発表者と非同期で好きなように資料データのページめくり・表示の拡大縮小ができる
  • 好きな時に発表者と同期できる
  • 参加者が自分のためだけのメモを書き込める
  • 自分のメモを書いたデータは自分だけが取り出せる専用のスペースに保管できる

以上ができるWEB会議で私が知るものは、iDeepソリューションズのTeleOfficeです。

この製品は歴史的にカメラ映像・音声機能の無いペーパーレス会議システムから始まったようなので、こういった機能を持つのも頷けるところです。
仕組みとしても、発表資料のデータが端末に独自形式のキャッシュとして保存され、ページめくりや部分拡大などの表示コントロールに必要なデータのみ送受信されるようなので、同期が瞬時で高精細となるようです。

ただし、保管したデータはMeetingplazaのペーパーレスシステムのように全文検索したりだとかふせんをつけておいたりなど、「ファイル管理」の機能は弱いようですが、WEB会議にそこまで求めるのは酷でしょう。

また、あくまでサーバーにアップロードした資料に対して上記のようなことができるわけで、発表者のPCの画面を相手に見せる機能の場合には当然発表者と非同期で資料をめくるなどはできません(あくまで見ているだけ)。
逆に言えば、ブラウザだとかCADアプリだとか、そういった特定アプリの画面シェアが主要ニーズであればこの製品を積極的に選ぶ理由はありません。

パイオニアVC「xSyncPrimeコラボレーション」

この製品はTeleOfficeのような「資料共有」機能とは逆のベクトルで気持ちよく振り切っています。
「会議資料をアップロードする」という概念がなく、「発表者のPC画面をシェアする」のみです。特定のアプリケーションウィンドウに限るということさえもしなかったと思います。

つまり、資料をサーバーにアップして高速にシェアするだとか参加者が独自にページをめくるだとかいう、ユーザーの機能に対する「理解」が求められる機能はあえて捨てて、単純に「見せたい画面を高速に配信する」ことに重きを置いています。操作ボタンもシンプルです。
また、それだけになってしまうとテレビ会議専用機のPC映像配信と変わらずにWEB会議の強みがなくなってしまいますが、細かなアプリ画面でも映像が潰れたりしないように十分な解像度を確保し、発表者の画面上にお互いから同時に手書き線を書けたり、任意のタイミングでデスクトップ画像を簡単にキャプチャできたりなどWEB会議ならでは利便性についてもフォローしています。

また、本記事の主題とは逸れますが、音響メーカーとしてかつて名を馳せたパイオニアの関係会社ということで、音質には非常にこだわっており、WEB会議の中にあって評価が高いです。
さらにはかつて「オンプレ型WEB会議 シェアNo.1」を掲げており、セキュリティ規準上パブリッククラウド利用が許されない企業でも導入することができます。

このように、レッドオーシャン・群雄割拠のWEB会議市場において強みを明確に磨いた良品と言えるのがこの製品です。

ブラザー「OmniJoin」

この商品の「資料共有」はいわば「全部入り」です。

・PCデスクトップ画面配信、参加者からの操作
・特定アプリの画面配信
・海中に特定ファイルをPDFとして共有して書き込み
・クラウドサーバーに事前アップしたファイルを共有
・ホワイトボードの共有
・ファイル配布

結局のところ、「万能な資料共有方式」というものは無いのです。
そのため、使う目的がはっきりしているユーザーは、その目的において一番利用頻度の高い「資料共有」に強みを持つ製品を選ぶことになります。
一方で目的がはっきりしていないユーザー、もしくは部署ごとに使う機能が違ってくるユーザーについては、「どのパターンの資料共有でもそこそこ使える」製品を選択しておくのも手です。
オムニジョインは後者の選択の一つとなりうる製品です。

ただし一番気をつけなければいけないのは、「ごちゃごちゃ機能がいっぱいあって結局使い方がわからない」「どれも使いにくい」「どれもいまいち痒いところに手が届いていなくて使いづらい」といった事態です。
機能が多ければ多いほどその罠にはまりがちです。
オムニジョインの場合も、はっきり言って、これだけの種類の資料共有方式のうち、どういった会議のどういった資料ではどの機能が最適なのか、理解できるユーザーはほとんどいないと思います。
とはいえ、大は小を兼ねるという思想もあります。導入時には具体的なイメージをもって利用風景をエミュレートし、社内への普及を推進する役割を果たす部署が独自のマニュアルを作って使い方を啓蒙するなど、使う側の努力が必要になるでしょう。

ところでオムニジョインは、企業母体としては大きなブラザー工業が、かなり気合いを入れて取り組んでいる事業であることが垣間見えます。印刷市場の縮小によって新たなソリューションの軸を作ろうとしている感はありますが、後発なだけあり、価格も機能もだいぶ他社を研究しています。
また、テレビ会議専用機の会議への接続など、クラウドサービスとしてインフラの用意(外部委託かもしれませんが)にコストがかかる部分も積極的に取り入れています。
おそらくまだ市場シェアも高く無いでしょうし、これだけコストのかかる開発を言わばかなりの先行投資で推し進めいているのは、気合いの表れです。
半端で無い姿勢は評価できますし、これからどんどん機能も洗練化されることでしょう。

そういった意味でも注目したい製品であり、複数社比較・検討する中に含めておきたい製品です。
フリートライアルで使い勝手を体感してみてはいかがでしょうか。

 

その差は非常に細部であり、複数製品を並べて比較表を作ったとしても、○×で表現できる範疇を超えています。しかしその細部の違いが、大きな使い勝手の違いを生み出し、あまつさえ「対応はしているけど使えない」製品さえあります

それだけに、カタログ上の表現のみに惑わされずに実際に製品を試用するなどして機能が「使える」かどうかの見極めが必要ですし、逆に不要な機能を取捨選択し「どこまで必要か」をしっかりと見極めて製品選択する必要があります。